債権回収の事案で多いのは、未払いになった時点で、取引先の代表番号に電話をしても出ない、オフィスが閉まっているなど、取引先がもう動いていないケースです。
取引先の規模や業態にもよりますが、そうなると回収の見込みはどうしても低くなると言わざるを得ないかと思います。
それでは、事前にどのような手を打てば良かったのでしょうか。
取引先候補の調査
まず考えられるのは、取引先候補の調査です。
帝国データバンクをはじめとする調査会社に依頼すれば、財務状況に関する情報を得ることができますし、利用している金融機関や取引先会社についても事前に把握することが可能です。
しかし、小規模な会社だと、金融機関向けに修正された決算報告書を作成することもあり(実際に案件処理に際し、何回かその類の決算報告書を見掛けたことがあります。)、また、利用している金融機関や取引先会社も古い情報の可能性があるため、注意が必要です。
また、調査には相応の費用が掛かるため、取引の規模によっては、そこまで行うのは……と懸念される方もいらっしゃるかと思います。
そのような場合は、最低限、取引先の登記簿謄本は取得しておくのをお勧めします。
登記簿謄本は誰でも取得できますし、登記情報提供サービスというサイトに事前に登録すれば、オンラインで登記情報を確認することも可能です。
得られる情報はそれほど多くありませんが、少なくとも、設立年月日、本店所在地、資本金の額や役員構成といった情報は確認できます。そして、その情報を起点に、ネガティブな要素がないか調査します。勿論、限界はありますが、僅かな手数料で行うことが可能ですし、当然調査したことを相手方に知られることもないので、是非一度試してみてください。
次に考えられるのは、取引に際し、担保を掛けることです。
取引の担保
担保は、大きく、人的担保・物的担保に分けられます。
人的担保とは、債務について、借りた人間以外の第三者が支払義務を負う担保です。
代表取締役が会社の債務を連帯保証するなどの方法が考えられます。
ちなみに、会社の債務について、会社とは無関係の第三者に連帯保証してもらう場合には、基本的には、単に書面を取り交わすだけではなく、公証役場で公正証書にする必要がありますので、ご注意ください。
物的担保とは、会社の債務について、優先的に担保となった財産から弁済を受けることができる担保です。
物的担保は、別途の約束を必要とする担保と、必要としない担保があります。
別途の約束を必要とする担保として典型的なものは、抵当権や質権、また譲渡担保といった担保があります。
必要としない担保としては、留置権、先取特権といった担保があります。
いずれも、担保となるべき財産があることが前提になりますので、担保を取っておきたいと考えた際には、まず担保となるべき財産の有無(なお売買の場合、売却した物品も担保の対象となります。)を確認し、そのうえでどのような手段が採れるのか検討しましょう。
また、担保とは異なりますが、最近ではファクタリングといって、売掛債権をファクタリング会社に売却して現金化する方法もあります。一口にファクタリングといっても、取引先も含めた三者で合意して行う形式のもの、取引先を含まずに当事者間で合意して行う形式のものなど多種多様で、中には悪質な業者もあるため、ファクタリング業者の選定は慎重に行う必要があります。
取引先との契約書にも注意
また、取引先と契約書を取り交わす際には、契約条項にも注意を払う必要があります。
契約条項には、ほぼ必ず、期限の利益喪失に関する条項が含まれています。
これは、要するに、あらかじめ定めたトラブルが発生した場合には、売掛金等の弁済期までの猶予期間が無くなり(これが期限の利益を失うということです。)、即時弁済しなければならない、とする条項です。
この期限の利益を喪失する場合として、破産手続開始の決定を受けたとき、がありますが、実は、この破産手続開始の決定を受けたとき、というタイミングでは、既に破産手続が始まっているため、基本的には、債権回収に着手するには遅すぎるのです(但し、担保がある場合は別。)。
したがって、その前の段階、取引先の信用不安を伺わせる事情がある等の段階で売掛金等の期限の利益を失わせ、即時、債権回収を図ることができるような建付けにしておくのが望ましいでしょう。